「ふえるわかめちゃん」が上場廃止の危機!コロナより恐ろしい中国リスクとは

10/22(木) 6:01配信

「ふえるわかめちゃん」や「ノンオイル青じそドレッシング」などヒット商品を生んできた理研ビタミンが危機 Photo:Diamond

 

 「ふえるわかめちゃん」や「ノンオイル青じそドレッシング」などのヒット商品を生んできた東証1部の「理研ビタミン」が不正会計問題で上場廃止の危機に直面している。安定した収益力を誇る時価総額1000億円弱の企業が突然陥った危機の要因を分析すると「中国リスク」の恐ろしさが浮かび上がってくる。多くの日本企業にとっても無縁ではいられない重要な問題だ。(東京経済東京支社情報部 井出豪彦)

 

● 中国子会社の架空取引で 監理銘柄に指定

 

 理研ビタミンは10月15日、東証の監理銘柄(確認中)に指定されるとともに「10月28日までに第1四半期(4-6月)の四半期報告書を関東財務局に提出できなかった場合は上場廃止が確定」とのリリースを開示。市場関係者の間では「そこまで深刻な状況だったとは」と驚きが広がり、慌てて情報収集に追われているようだ。

 

 理研ビタミンは社名が示すとおり「理化学研究所」が発祥で、理研の研究内容を工業化するために設立された「理研栄養薬品株式会社」のビタミン部門関係者が分離独立して1949年に設立された。

 

 テレビCMで有名なわかめスープやドレッシングなどの家庭用食品のほか、業務用食品、加工食品用の原料や改良剤、ビタミン類等の製造を手掛けている。海外への展開にも積極的で中国や東南アジアのほか、米国、ドイツに現地法人を置いている。

 

 今回、問題が判明したのは中国・山東省にある子会社「青島福生食品有限公司」。94年にレトルト食品用の冷凍野菜の輸入を目的に買収した。ただし、その後中国産食品に対するイメージの悪化から現在は取り扱っていない。

 

 冷凍野菜・水産加工品・コラーゲンの製造・販売を手掛けており、2015年まではそれなりの利益を上げてきたものの翌年以降赤字が続き、19年以降は銀行借入に対して理研ビタミンが保証を付けたり、資金援助しなければ立ち行かなくなっていた。

 

 その青島福生食品がエビ加工品の架空取引をするようになったのは同社の決算月にあたる18年12月からで、同月は8億円余りの架空取引が行われた。

 

 さらに19年12月期は架空取引が1年を通じて行われ、その額は116億円に上った。19年12月期のエビ加工品の販売総額は124億円であるため、その取引のほとんどが架空であり、同社の売上高全体の実に7割以上に及んだという。

 

● 国家機密などを理由に 十分な実地調査できず

 

 こうした経営がまかり通ってきた背景として、理研ビタミンの完全子会社であるにもかかわらず事業上の関係が希薄であり、青島福生食品の人事に親会社が関与してこなかったことなどが指摘されている。

 

 理研ビタミンが設置した「特別調査委員会」による実地調査に対し、青島福生食品は国家機密や社内の共産党委員会に関係する情報の流出、従業員のプライバシー等を理由に拒絶し、十分な調査はできなかったという。

 

 理研ビタミンは19年3月期決算について売上高8億円、純利益8億円を減額する訂正をしたが、20年3月期は売上高123億円を取り消し、売上原価120億円を「水産加工品取引関連損失」として特損計上した。

 

 こうして3カ月も遅れて提出された有価証券報告書に対し、あずさ監査法人は十分かつ適切な監査証拠を入手することができなかったとして、「限定付適正意見」にとどめた。

 

 だが問題はそれだけでは終わらなかった。

 

 青島福生食品の今年8月度において、滞留していた原材料や製品の一部を廉価で販売し約26億円の営業損失が発生したため、理研ビタミンに説明を求めたところ、青島福生食品との間で在庫の仕入・製造時期の認識に相違があることが判明。過年度の棚卸資産が過大計上されていた疑いが新たに生じたため、前回の特別調査委員会に改めて調査を委嘱することとなった。

 

 もともと第1四半期決算はいったん10月16日まで発表を延長することで関東財務局から承認を受けていたのだが、その調査のため一転して発表が不可能になってしまったのだ。

 

 青島福生食品には売掛金や銀行入金額を管理するシステムがなく、紙媒体もしくはエクセル等に手入力をしていたというから、もはや何も信じられない。中国子会社にあった「パンドラの箱」が開いてしまった格好だ。

 

● 身内同然の会社に 寝首をかかれたKPP

 

 チャイナリスクはほかでも顕在化している。

 

 同じく東証1部上場の大手専門商社「国際紙パルプ商事」(以下、KPP)は7月21日、中国の連結子会社において、154億円もの債権に取立不能・遅延リスクが発生したことを明らかにした。

 

 KPPの連結子会社である慶真紙業貿易(上海)と香港大永(香港)が取引をしていた会社の親会社にあたる「Samson Paper Holdings Limited」(以下、Samson)(香港証券取引所上場)が7月20日、バミューダ最高裁判所に対し再建に向けた「暫定清算手続」の申請を行ったためである。

 

 KPPはとりあえず4-6月期決算では3月末時点の債権残高のうち、7月20日時点で未回収だった27億円について貸倒引当金を計上したが、今後の債権回収状況を鑑み、8月12日になって通期業績予想を61億円の営業赤字とした。

 

 従来はコロナの影響が読めないとして業績予想を「未定」としていた。だが急遽、固定資産の売却により特別利益を計上することで最終損益は黒字を確保し、1株10円の株主配当も維持するという。

 

 とはいえ、今回の大口焦げ付きの責任を明確化するため、会長兼CEOの田辺円氏と社長の栗原正氏はそろって8月から10月までの3カ月間月額報酬を50%減とするほか、取締役の役員賞与も50%相当額を不支給とするなどの処分を打ち出した。

 

 そもそも年商4000億円規模の商社が1社(グループ)に150億円もの債権を持つことはリスク分散の観点から通常考えられない。

 

 実際、KPPとSamsonは単なる取引先を超えた関係だった。Samsonの関連会社はKPP子会社の慶真紙業貿易に15%の出資を行っていたほか、反対にKPPはSamson社の子会社である「Mission Sky Group Limited」に22.3%出資し、取締役まで派遣していた。

 

 身内同然だと思って安心していたら、まんまと寝首をかかれたといっていいだろう。

 

● 東レ子会社でも 売掛金の回収遅延

 

 似たような事例はまだある。

 

 東レの子会社で東証1部に上場する名門商社の「蝶理」も7月27日に子会社の「澄蝶」(東京都港区)で49億円もの売掛金の回収遅延が発生したため、4-6月期にそのうち半額について貸倒引当金を積んだと発表した。

 

 相手先は「中国の化学品製造会社グループ」としか明かされていないが、同グループは「新型コロナウイルス感染症の世界的拡大の影響を受けて中国の経済活動が一定期間全面停止したことなどから、主力の石油化学事業が低迷し、資金繰りが不安定な状況に陥っているとされ、澄蝶への原料購入代金の支払いが遅延」(リリース)しているという。蝶理はこの損失のため1株57円としていた今期の配当予想を「未定」とした。

 

 ちなみに、澄蝶は社名が示すように中国の大手リン酸メーカー「江陰澄星」と蝶理の合弁会社である。蝶理は1961年に国交正常化のはるか前の中国で「友好商社」の指定を受け、「日中貿易のパイオニア」を自認している。それでも今回中国での大口焦げ付きを避けられなかった。

 

 国内でも新型コロナウイルスのリスクは確かに恐ろしいが、足元の倒産状況を見ればわかるとおり「持続化給付金」や「実質無利子・無担保融資」の効果はてきめんだ。

 

 4-9月期の倒産件数はコロナ前を下回っており、実はバブル期以来の低水準にとどまっている。政府は「平成の徳政令」ともいわれた中小企業金融円滑化法よりさらに手厚い支援に踏み込んで中小企業を守っているといえる。大企業についても日産自動車向け融資の実質的な政府保証やANAへの官民挙げての支援に関する報道を見るにつけ、ただちに倒産が続発する状況には見えない。

 

 むしろチャイナリスクのほうがよほど予見するのは難しく、深刻な事態を引き起こす。そもそも「コロナ関連倒産」とされている「レナウン」も2月の段階で、親会社の中国企業グループに対する売掛金53億円が焦げ付いたのが致命傷だったのだ。

 

井出豪彦

https://news.yahoo.co.jp/articles/daeeb7524348f617a18994e89c22011bfb6719f0?page=3