名門NYタイムズ「恥ずべき黒歴史」が映す本性

大虐殺を握り潰し、テロ組織の宣伝工作に加担

東洋経済オンライン / 2020年10月14日 13時10分

ニューヨーク・タイムズといえば、押しも押されもせぬ報道メディアの最高峰的存在だ。日本でもアメリカ通といわれる知識人の多くが、主要な情報源として同紙を頼っている。

 

ところが、そのニューヨーク・タイムズも報道から客観性が失われ、会社や記者の主義・主張を色濃く反映させた偏向報道をしていると『失われた報道の自由』の著者マーク・R・レヴィン氏は批判する。同紙は、過去に数度、報道倫理に抵触する大失態を演じているが、その教訓は現在に至っても生かされていないという。

※本原稿は『失われた報道の自由』を抜粋・再構成しています。

 

■メディア史上、最大の失態

イギリスのジャーナリスト、クラウド・コックバーンはかつてこう書いた。「すべてのニュース記事は順番が逆だ。本来はまず事実があり、そこからニュースが生まれるはずだ。それなのに実際は、まずジャーナリストの見方や考えがあり、それをもとに事実が組み立てられている」。

 

ユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)に関する報道についても、これが当てはまる。ジャーナリストが集団思考に陥り、メディアによる隠蔽や徹底的な自主規制といった不当な行為が重なった結果、何百万ものヨーロッパ系ユダヤ人とアメリカ国民をひどく裏切ることとなった。これはアメリカの報道機関がこれまでに犯した軽率で詐欺的な行為の中で、最大のものである。

 

1942年11月24日、ナチスがヨーロッパ系ユダヤ人を殺害している明らかな証拠が公になったものの、ほとんどのメディアはこのニュースに見向きもしなかった。

 

きっとニューヨーク・タイムズなら、あらゆる手を尽くしてユダヤ人の大量虐殺を調査し、報道したのではないだろうか、と思われる人も多いだろう。当時から広く読まれていた新聞で、大勢の記者を抱え、外国からの情報も手に入る。アメリカで最も影響力ある新聞としての評判を誇り、ユダヤ人の読者も多く、所有者もユダヤ人だったからだ。

 

ところが、現実はその逆だった。

 

「当時アメリカで最も有名な新聞だったニューヨーク・タイムズは、所有者がユダヤ人だったが、ユダヤ人偏重と思われるのを懸念していた。そのため、ホロコーストに関して、ある程度報道していたものの、たいていは1面以外のページで小さく扱うだけだった」

 

ノースイースタン大学教授で元ジャーナリストのローレル・レフは、著書『ニューヨーク・タイムズの隠蔽(Buried by the Times)』の中で同紙をこう断罪する。

 

「ニューヨーク・タイムズが、何百万ものユダヤ人の虐殺はさほど重要なニュースではないと判断したことで、さまざまな方面に影響があった。ニュースの価値を判断しようとしていた他社のジャーナリストたち、世論を動かしたいと思っていたユダヤ人団体、アメリカの対応を決めようとしていた政府高官への影響は大きかった」

 

実はニューヨーク・タイムズの発行人アーサー・ヘイス・サルツバーガーは、ホロコーストのニュースを、紙面で意図的に、繰り返し、握りつぶしたり完全に無視したりした。サルツバーガーがヨーロッパ系ユダヤ人の苦難から距離を置き、冷たい態度をとったのは、ユダヤ教への彼自身の考え方が大きく関係していた。

 

■過去の大失態を教訓にできないメディア

2001年11月14日、マックス・フランケルがニューヨーク・タイムズにある意見記事を書いた。フランケルは同紙に50年間勤め、1986年から1994年まで編集長を務めた人物だ。

 

記事のタイトルは、「創刊150周年記念 1851年から2001年。ホロコーストから目を背けた過去」。ニューヨーク・タイムズは初めて、過去の過ちに徹底的に向き合おうとしたようだ。フランケルはこう書いている。

 

「ヒトラーによるユダヤ人の組織的な虐殺を、第2次世界大戦の最も恐ろしい恐怖として報道しなかったことは……痛恨の汚点だ。私たちは戦争について伝えるとき、ナチスの罪に光をあてるべきだった」

 

フランケルは記事の最後に、読者を安心させるように、サルツバーガー家とニューヨーク・タイムズは教訓を学んだと書いている。

 

フランケルは次のように記事を結んでいる。

 

「アメリカのメディアがヒトラーの狂った残虐行為に注意を向けなかったことで、その後何世代にもわたる記者や編集者たちは、今日に至るまで罪の意識を感じている。だからこそ、ウガンダ、ルワンダ、ボスニア、コソボといったはるか遠い地で民族に起きた蛮行に敏感に反応してきた。

 

大虐殺を目の当たりにしてジャーナリズムは手をこまねいているわけにはいかない、と固く決意している」

 

とはいえ、当時ニューヨーク・タイムズの多くの報道現場、ジャーナリストやコメンテーターの間に広まっていた、ホロコーストに関する報道姿勢やユダヤ人への反感は、まったく消えてしまったわけではないようだ。

 

イスラエルは1967年に第3次中東戦争に勝利し、国の生き残りをかけた戦いに勝てること、いずれ勝つことを証明してみせたが、それ以来、繰り返しメディアの標的になってきた。

 

みなさんは、アメリカや世界中の報道でテロリスト集団のハマスが好意的な扱いを受けていることを不思議に思ったことはないだろうか。AP通信の元特派員で、イスラエル報道に携わっていたマッティ・フリードマンはこう説明する。

 

「2007年にガザで権力を掌握して以来、イスラム抵抗運動(ハマス)は、多くの記者が『イスラエル人は迫害者だ。パレスチナ人は正当な目標を掲げた被害者だ』というストーリーを信じており、それと矛盾する情報には関心がないことを知った。

 

だからこそ、ハマスの報道官は欧米のジャーナリストに対して、ハマスは好戦的な発言をしているが、実は現実的な考えを持った団体だと打ち明ける策を取っている。私はハマスからこうした話を聞かされたジャーナリストを個人的に何人も知っている」

 

■テロ組織のプロパガンダに加担

「一方ジャーナリストたちは、そういう話を信じたがり、大衆は賢くないから鵜呑みにするだろうとばかりに、この偏った見方をスクープニュースとして取り上げてきた」

 

メディアはまたしてもニュースのもみ消しとプロパガンダの普及に加担している。

 

さらに2018年のクリスマスイブに、ニューヨーク・タイムズは、レバノンを拠点としてイランの支援を受けるテロ組織、ヒズボラが偽りの融和を演じようと開いたイベントをニュースとして好意的に報じた。ヒズボラはテロリストをイエス・キリストになぞらえていたが、それはまったくのプロパガンダだった。

 

ニューヨーク・タイムズは、「アナリスト」の言葉を借りながらとんでもない説明をした。

 

ヒズボラは伝道を行う団体で、まっとうな政治組織だとして、「アナリストによると、このようにクリスマスの精神を取り入れていることは、ヒズボラがレバノン社会の重要な政治、軍事勢力として開放的な組織である証拠だという。キリスト教系の政党との政治的な連携を強調していることがわかる」と断言したのである。

 

だが、ヒズボラはそのような団体ではない。非営利組織の反過激派プロジェクト(Counter Extremism Project)が言うように、イランと同じく、ヒズボラもアメリカとイスラエルを最大の敵と考え、これら両国に対して世界中でテロ活動を起こしている。

 

2001年9月11日までに、ヒズボラの関与で殺害されたアメリカ人の数は、ほかのどのテロ組織よりも多い。

 

アメリカ中東報道の正確性委員会(CAMERA)のギリアド・イニは、ニューヨーク・タイムズの直近1年あまりの記事を調べたところ、同紙は「報道倫理をいつも軽視している。反イスラエルの活動家を守り、世論を反ユダヤ人国家の方向に導くための運動に参加している」と結論づけた。

 

1897年、ニューヨーク・タイムズのオーナーだったアドルフ・S・オックスは、「印刷に値するすべてのニュースを(All The News That's Fit To Print)」という有名なスローガンを打ち出した。この言葉はいまでも同紙の1面左上に印刷されている。オックスは偏りなくニュースを報道するという心構えを宣言するために、このスローガンを書いた。

 

■メディアが「報道の自由」を脅かしている

ニューヨーク・タイムズは今日、ほかの報道機関やジャーナリストも参考にするジャーナリズムの規範であり、ニュース記事や見出しの指針ともいえる存在だが、ほかの報道機関とは比べものにならないぐらい、うそや虚偽の報道を行った恥ずべき歴史がある。

 

アドルフ・ヒトラーによるユダヤ人の大量虐殺や、ヨシフ・スターリンによるウクライナ人の大量虐殺を報道しないという恐ろしい失敗を犯した。どちらもニューヨーク・タイムズの誠実さと信頼性に、永久に汚点を残したはずである。

 

だが今日、ニューヨーク・タイムズはメディアが団結して報道の自由を訴えたキャンペーンでリーダーを自認するなど、思い上がった態度をとっている。プログレッシブを代表する存在として知られ、事実を歪めて報道することも多い。

 

それが、ニューヨーク・タイムズの本当の姿ではないだろうか。イデオロギーを広めるという真の目的を隠すために、ジャーナリズムや自由な報道の役割と目的を踏みにじっているのではないだろうか。

 

メディアは自らを振り返って慎重に考えるのが苦手だ。ニューヨーク・タイムズもほかの多くの報道機関も、自分たちの行動や規範を振り返り、真剣に自己管理をして行いを改めようとするどころか、自分たちこそが正しい、報道の自由を守らねばならない、と自信たっぷりに訴えている。

 

メディアは今日、自らの価値をおとしめるばかりか、報道の自由に大きな脅威を与えている。トランプ大統領でもトランプ政権でもなく、かつてジャーナリズムを掲げていた報道機関自身がいま、報道の自由の大きな脅威となっている。

 

マーク・R・レヴィン:司会者・弁護士

 

https://news.infoseek.co.jp/article/toyokeizai_20201014_379343/?p=1