国外代理出産のわが子に会えない…コロナで苦悩する中国人の親たち

AFPBB News / 2020年10月18日 7時0分

代理母出産で生まれ、実親の引き取りを待つ赤ちゃんを世話する看護師。ウクライナ・キエフのホテルで(2020年5月15日撮影)。(c)Sergei SUPINSKY / AFP

 

 

【AFP=時事】チェリー・リン(Cherry Lin)さん(38)は、せつなそうにベビー用ロンパースをなで、まだ見ぬ息子にはサイズがもう小さ過ぎるのではないかと心配していた。新型コロナウイルスの感染拡大で国境封鎖を余儀なくされた中国には、国外で代理出産サービスを介して誕生したわが子にいまだ会えない母親が大勢いる。

 

 2016年に一人っ子政策が廃止された中国では、所得が増え、不妊に悩むカップルが息子を欲しがるケースが増加。国内では、貧困女性が食い物にされているとの懸念から、商業的または利他的なものも含め、あらゆる代理出産が2001年に禁止されたが、3万5000ドル(約370万円)から7万5000ドル(約790万円)を支払えば、自分たちの赤ん坊を出産してくれる女性をラオスやロシア、ウクライナ、ジョージア、米国などで見つけることができる。

 

 しかし、新型ウイルスのパンデミック(世界的な大流行)により、代理出産サービスは混乱。国境が封鎖され、空路は途絶え、査証(ビザ)の発給は停止され、生物学上の中国人の両親の引き取りを待つ新生児や乳児が多数、国外で足止めされたままになっている。

 

 ロシアやウクライナの代理出産の仲介業者によると、引き取りが滞るにつれて、児童養護施設やアパートなどに何十人もの新生児を収容した「赤ん坊部屋」が見つかっている。

 

 四川(Sichuan)省成都(Chengdu)からAFPの取材に応じた弁護士のリンさんは、「私の子が養護施設で足止めされているかと思うと、夜も眠れない」と語った。

 

 リンさんは何度か流産を繰り返した後、代理出産に踏み切り、昨年、夫婦で体外受精(IVF)を行うためにロシアに渡航し、代理出産の仲介業者と契約を結んだ。

 

 

■ロシアが国境封鎖した後、息子が誕生

 

 だが、新型ウイルスの感染が世界中に広がる中、計画は「悪夢」と化した。今年6月にリンさんの息子がロシア第2の都市サンクトペテルブルク(St. Petersburg)で生まれたものの、その3か月前にロシアが新型ウイルスの拡大防止策として中国との国境を封鎖したのだ。

 

 リンさんは、代理出産業者から送られてくる写真とビデオで息子の断片的な姿を眺めることしかできない。

 

 AFPは中国人の実親に子どもを引き渡す救済策について、中国外務省と在中国ロシア大使館に問い合わせたが、回答は得られていない。

 

 だが、先月22日、多くの赤ん坊が立ち往生しているサンクトペテルブルクで子どもの権利擁護を担当している当局は、「中国人の親たちがロシアに来て子どもを引き取れるように、ビザの発給と、北京からの人道的な航空便の運航を検討している」との考えを示した。

 

 代理出産で生まれて他国で引き取りを待つ中国人の赤ん坊が何人いるのか、公式の統計はない。

 

 代理出産サービスを提供しているウクライナのバイオテックスコム(BioTexCom)が6月に公開したビデオでは、ホテルの一室に多数のベビーベッドが並べられており、この危機の大きさをうかがい知ることができる。同社の広報担当者によると、その赤ん坊46人の半数近くの実親は中国人だ。

 

 ウクライナ当局はその後、国境封鎖中であっても、赤ん坊の引き取りを求める実親に特別許可を出す措置を取った。

 

 だが、それだけでは不十分だと、ウクライナの首都キエフで5月に息子が誕生したリー・ミンシャ(Li Mingxia)さんは言う。

 

 飛行機の便が少なく、新型ウイルス対策としての隔離義務もあるため、親子の対面は11月下旬まで果たせそうにない。「息子の人生の最初の6か月を一緒に過ごせないなんて」とリーさん。「その時間は取り戻せない」

 

 

■国内の闇市場の主要な顧客は軍の将校や共産党幹部

 

 ロシアの国営メディアの報道によると、人身売買への懸念が広がり、ロシアとウクライナの警察はアパートの「赤ん坊部屋」の強制捜査を開始した。こうした部屋では、法的書類を有していない赤ん坊5〜6人をベビーシッター1人で世話している。

 

 サンクトペテルブルクにある代理出産仲介業の中国担当者で、リンさんに協力したドミトリー・シチュコ(Dmitriy Sitzko)氏は、「警察が踏み込んだときに身元書類のない中国人の乳児数人が赤の他人と一緒に住んでいると、移植用臓器の摘出用に赤ん坊を売っているかのような印象を与える」と話した。

 

 リンさんは仲介業者に、赤ん坊を無料で世話してくれる国営の児童養護施設を見つけてもらった。

 

 だが、シチュコ氏によると、ロシアの一部の仲介業者は、月額7000元(約11万円)から2万1000元(約33万円)を実親に請求しているという。

 

 一方、世界的な海外渡航制限で外国での代理出産が滞っていることを受け、国内の闇市場を頼る人々もいる。

 

 中国南部の広東(Guangdong)省広州(Guangzhou)の仲介業者はAFPに、「(胚の)移植と出産が成功」した際の費用は60万元(約940万円)だと明かした。

 

「20万元(約310万円)追加すると性別を選ぶことができ、さらに20万元払えば龍鳳(りゅうほう)胎(男女の双子のこと)も選べる」と、オプションについて説明した。

 

 中国国内で主に非合法な仲介サービスを利用しているのは、軍の将校や共産党幹部、判事など、機密に関わる職にあるため海外に渡航できない人々だ。当局とつながりがあるおかげで、こうした闇業者が罰せられることはない。

 

 子どもを持つために弁護士のキャリアを断念したリンさんは、不安が大き過ぎて中国の闇市場には頼れなかったと語った。だが新型ウイルスのパンデミックが起きた今、その選択を後悔している。「私がリスクを負っていたら、今ごろは自分の赤ちゃんを抱いていたのに」

 

【翻訳編集】AFPBB News