投稿日:2020/10/11

日本学術会議元会長、安倍首相に罵詈雑言

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

 

「古森義久の内外透視」

 

【まとめ】

 

・野党ヒアリングで日本学術会議元会長広渡清吾氏、菅首相の対応批判。

 

・広渡氏、かつて反自民党政権街頭集会で安倍首相に対し「ウソをつくな」「恥を知れ」と糾弾。

 

・国費投入公的機関が政治活動家により運営されてきた現実に違和感。

 

 

 

日本学術会議はおかしな国家機関だとこの連載コラムですでに書いた。(日本学術会議メンバー9割超は首相任命ではない 2020年10月8日掲載)

 

だがその奇妙な特徴はこの会議の元会長が自民党政権を一貫して攻撃する政治活動家であり、安倍晋三首相に「ウソつき」とか「バカ」という侮蔑の言葉を公開の場で何度も浴びせてきた人物であることにも象徴される。日本政府はその依って立つ自らの政権を全面否定する活動家をもこの政府機関の会長として認めてきたほど寛容なのだ。

 

日本学術会議をめぐっては菅義偉首相が新会員候補のうち6人を任命しなかったことに抗議する野党が10月9日、合同ヒアリングを開いた。この集会では同会議の元会長2人が発言者となった。2人とも菅首相の対応を非難したのだが、そのうちの1人は東大名誉教授で元専修大学教授の広渡清吾氏だった。

 

写真 広渡清吾氏 出典:東京大学社会科学研究所

 

広渡氏はドイツ法などを専門とする法学者で2000年に日本学術会議の会員となり、2011年には初の人文系の会長となった。だが同氏は自民党政権に一貫して反対し、共産党と共同歩調をとる活発な左翼政治活動家として知られてきた。とくに安倍政権の安保や防衛に関する政策には全面的に反対し、自民党政権を打倒して、「市民と野党の連合政権」を樹立することを訴えてきた。広渡氏は2015年にはそのための「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」という政治組織旗あげの呼びかけ人ともなった。

 

広渡氏は2015年までには日本学術会議を定年で離れたが、反自民党の政治活動では一貫して「日本学術会議元会長」の経歴を宣伝してきた。そして広渡氏は同年7月31日の東京での安保法制反対の集会などで演説して、安倍首相を「バカ」とか「ウソつき」とののしったのだった。

 

この時期の安保法制反対運動では法政大学教授の山口二郎氏が安倍首相に対して「お前は人間じゃない」と述べたことと広渡氏の「ウソつき、バカ」という安倍評などを合わせて中国問題評論家の石平氏が「中国共産党の独裁者に対してさえ中国内の民主派の私たちが使わなかったこんな言葉の暴力を自国の首相に向けるとは、日本のリベラル派はすでに死んだのか」という批判を産経新聞に発表したほどだった。

 

なお広渡氏はその後の2019年12月の反自民党政権の街頭集会でも安倍首相に対して「ウソをつくな」「恥を知れ」という激しい糾弾の言葉を述べた。

 

この種の政治活動も言論活動ももちろん広渡氏の自由である。だがその一方、「ウソつき」とか「バカ」というのは市民社会の発言としては理性も礼儀をも失った表現として響く。とくに平和や生命の大切さを説くはずの陣営の言葉としては自己否定とも受け取れる。

 

特定の個人に対しての「バカ」とか「ウソつき」はヘイトスピーチ(憎悪表現)ともなりかねない。朝日新聞社刊の百科事典ふう「知恵蔵」によると、ヘイトスピーチとは「主に人種、国籍、思想、性別、障害、職業、外見など、個人や集団が抱える欠点と思われるものを誹謗・中傷、貶す、差別する言葉」を指すという。安倍晋三氏を「バカ」とけなすのは「思想」が理由だろう。

 

広渡氏の場合、この種の公開、公式の政治活動では必ず「日本学術会議元会長」という肩書を使っている。解釈によっては日本学術会議自体が安倍晋三氏や自民党政権に対して広渡氏の使う乱暴な言葉の糾弾を暗に支援しているように受け取る反応もありうるだろう。

 

だがいずれにしても日本学術会議も、その会員を任命する首相も、運営にあたる日本政府も、政治面ではこれほど過激な言動を示す人物をも長年の会員としてだけでなく、会長として認めてきたのである。だから同会議を首相の管轄下の国家機関とみなす政府側からすれば、同会議の会員の政治的傾向はまったく無視してきた、あるいは科学と政治はまったく切り離してきた、ということになろう。

 

いずれにしても広渡氏の軌跡は日本政府側、ことに首相の側がこれまでは日本会議の会員の政治的な信条や活動に関しては、すべて寛容、あるいは無関心できたことを示すといえるようだ。

 

ただし日本国民の立場からすれば、自国の科学の純粋な発展を目的として貴重な国費を投入する対象の公的機関がこんな過激な政治活動家たちによって運営されてきたという現実には違和感を禁じえないのではないか。

 

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